友人の話。
顔見知りの家族と一緒に、キャンプに出かけた時のこと。
夕食を食べ始めると、娘が藪をじっと見ているのに気がついた。
「どうしたの?」と尋ねると、神妙な顔をして娘が答える。
「いただきますだって」
大して深く考えずに「そうだね挨拶しなくちゃね」と、娘の頭を撫でてやった。
娘は「ふうん」と答え、黙々と御飯を食べだした。
食事を食べ終えると、藪に向かって「ごちそうさま」と手を合わせる。
すると、彼女の耳にも確かに聞こえた。
藪の中から「ごちそうさま」と返す、小さなかすれた声が。
その時初めて、先ほどの娘の発言が、本当に理解できた。
慌てて亭主陣を呼び集め、藪の中を調べてみる。
半分土に埋もれた、古びたアルミ食器がそこに見つかったという。
他に怪しい物は、何も見つからなかったそうだ。
山にまつわる怖い話10