猿の死体

知り合いの話。

大きな山火事の後片付けをしていた時のこと。

かろうじて延焼を免れた林の中で、大勢の猿が折り重なって死んでいた。
炎は避けられたのものの、煙に巻かれてしまったらしい。
既に腐敗し始めているようで、臭いと蝿がひどく気になったという。

哀れに感じて手を合せていると、一緒に作業していた相方が彼を急かした。
半ば引きずられるようにして林の外へ連れ出される。
不審に思った彼がどうした?と聞くと、相方は不気味なことを言い出した。

「一頭だけ、まだ死んでいなかったんだ」

纏わりつく蝿を追い払っている内、おかしなことに気がついたのだそうだ。
蝿がまったく集っていない骸が一体。
長柄で突付いてみると、ぎろりと目だけ動かして彼を睨んだ。
はっと息を呑んだ直後に猿の視線は逸れて、元の状態に戻ったという。

二人とも林に戻る気などしなくて、本部に報告だけ入れておいた。
次の日、別の作業班がその林の中に入ったのだが、山のようにあった猿の死体は三頭を残してきれいさっぱりとなくなっていた。
ただ、一面に酷い腐敗臭が立ち込めていて、それに閉口したと伝え聞く。

山にまつわる怖い話13

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