背比べの跡

私の体験した話。

山中の一軒家に、改装の仕事で呼ばれた時のこと。

洗面所の壁紙の寸法取りをしていると、入り口の柱に傷があるのに気がついた。
鋭い物で横に引っ掻いてあり、その線の横には小さく名前が書かれていた。

「たかし 五歳」「たかし 七歳」「ななこ 四歳」

背比べの跡だ。
以前この家に住んでいた家族のものらしい。
何とはなく微笑ましく思えて、心が和んだ。
立ち上がった時に、天井付近にも何か刻まれているのに目が行った。
その家は普通より天井が高く、三メートル近くはあったのだが、誰が付けたのかそこの柱にも傷があったのだ。

傷の横には、下手な角ばった字体で「ひろし」とだけ書かれていた。

施主は、柱も色を塗り直してくれと伝えてきた。
私は一も二もなく賛成し、濃い茶色系の色を選択した。
丁度、下の傷や落書きがすべて見えなくなるような色を。

その時の施主とは、今も仕事の付き合いが続いている。

山にまつわる怖い話13

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