私は今、独り暮らしをして3年目にる。
掃除をしていたところ、実家から持ってきた石を久々に見つけたので、そのエピソードも思い出してみた。
うっかり長文になったので、3回くらいに分けて書き込みます。

数年前、雨が降る日だった。
冬の終わりのころ、冷たい雨だったと思う。
婆ちゃんがなくなって数ヶ月…経っていなかったかもしれない。
寂しい寂しいと、爺ちゃんはよく言っていたから、元気にしているだろうかとお父さんやお母さんと一緒に会いに行った。

とりあえずは元気そうだと安心して、1,2時間経ったころに別れを切り出す。
いつもどおりに握手をして帰る。
小さいころから決まった別れのやり方。帰るときは握手。

車は家横に置いてある。そこは坂になっていて、家は普通の道よりも下にあるのだ。
ちなみに、家の下に行けば畑が広がる。
大地主だったころの名残だとかで、今も畑は広い。
家の向かいには山だってある。
この日は雨が降っていたこともあって、畑にも山にも足を運ばずにそのまま帰ることにした。

車の横には山茶花の垣根。
垣根に囲われるようにちょっとした木だったり植物だったりが植えてある。
そこから家までの間は2m弱あり、そこには補正していない駐車場にあるような灰色の角ばった石が敷き詰められている。
この道を行くと畑に抜ける。

家の前でもう一度「バイバイ」と爺ちゃんと言い合った後、私はふと横を見た。
家と垣根の間。

そういえば、数日前にもここに来ていた。
お父さんと一緒に。

その日は、畑からの帰りにこの石の道を歩きながらお父さんの夢の話を聞いた。
夢の中でお父さんは掌に収まるような石を見つけたのだという。
その石には観音様が描かれていた。いや、彫られていたというのだろうか。
そんな夢を見たそうだ。

話していたお父さんがしゃがみこんで、立ち上がったときに私に見せてきたのは掌に収まるような丸い石だった。
黒い石で、真ん中あたりは傷なのか模様なのか明るい灰色をしていた。
ちょうどこんな石だった、と言う。

傷、観音様じゃないけどね。
私がそう言うと、そんな石はなかやろう、所詮夢の話だと笑っていた。
でもせっかくだから、とお父さんは山茶花の枝のまたの部分に石を置いた。
よくもまぁこんなにぴったり、と驚くほど安定して石は収まった。

私が思い出したのはそんなことだった。
行くよ、と急かすお父さんやお母さんに、ちょっと待ってと声をかけて私は山茶花の垣根に近づいた。
屋根から出ることになるから濡れてしまうけれど、どうしても確かめたかったのだ。
あの石があるのかどうか。
背中には不審がる視線を感じるけれど、私は好奇心を抑え切れなかった。

枝の間に、それはあった。
あのときよりも光沢を持って漆黒に見えるのは雨に濡れたせいだろう。
濡れたものなんて触りたくない、と普段は思う私だが、気にせず手に取った。
あの石だ。

「お父さん、あの石あったよ!」
嬉々として見せるけれど、お父さんの表情は不審そうなまま。
おかしいな、と思いながらも私は車に乗り込んだ。

車内で話すのは、お父さんの夢の話を聞き、あそこに石を置いたときのこと。
お父さんとお母さんは二人して驚いている。
お父さんは確かに石の夢を見たらしい。
けれど、お母さんにその話をしたのは今日だし、そもそも、夢を見たのだって昨日だと言う。
つまり、私に夢の話をした覚えはないし、何より枝の間に石を置いたなんてことはない、と言うのだ。

あれ、と思い返してみる。
確かにお父さんは置いた。
けど、いつだった?
最近っていつだ?
置いた後、どうした?
思い出せないことがちらほら出てくるのに時間はかからなかった。

けれど、何が何でも私はこれを正当な記憶にしたかった。
そうでないなら、この石はなぜあんなところにあったのかわからない。
嘘だ、と言い張る私を尻目に、お父さんもお母さんも嘘じゃない、と言う。

「でも、石持ってきちゃったよ」
嬉々とした私はあのまま石を握ってきたのだった。
観音様じゃないにしろ、お父さんの夢に出てきた石と似ていると言っていた。
それに、あの雨の中落ちなかった石だから、何かあるんじゃないか、と思っていた。
お母さんはあからさまに嫌そうな顔をして、何かあったらどうするの、と言った。
私だってそう思う。

その日から少しの間、私は石を見るたび不安になったが、結局、何も起こらないままだった。

今も、ただ石はここにあるだけだ。

死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?235

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