同僚の話。
東南アジアに出張していた時のこと。
彼が逗留していた村で、殺人事件が起きた。
部族の有力者が二人、連続して殺されたのだ。
遺体はどちらも腹が裂かれており、肝臓が失くなっていたと聞く。
結局、彼が滞在している間に犯人が捕まることはなかった。
呪術的な側面があるとかで、現地の警察も捜査に腰が引けていたという。
酒の席で現地人同僚に聞いたところ、この辺りの山岳民族が信仰している教義に関係があったのだそうだ。
その土着信仰では、内臓に霊的な物が宿ると信じられている。
各臓腑によって何が宿るか決まっており、肝臓には魂が宿るのだと。
「肝を食われちゃ、もう生まれ変われない。この世からの完全な抹殺なんだ」
そう言って怖れられていたらしい。
事件の真相は、部族内の権力闘争だったのかもしれない。
「お前は怖い話を集めているけど、やっぱり一番怖いのは人間だと思うぞ」
土産話にこの話を聞かせてくれた友人は、そう締めくくった。
山にまつわる怖い話22