友人の話。
彼女の実家では蜜柑を作っている。
季節によっては一部を開放し、蜜柑狩りなどさせているという。
蜜柑畑のある山の斜面は、彼女の大好きな場所の一つなのだそうだ。
その斜面の一角に、奇妙な蜜柑の木が一本生えている。
周りには何重にも柵がしてあって近寄れず、手入れも収穫もされていない。
ただあるがままに放っておかれているのだと。
畑の一番奥外れなので、普通は寄りつきもしない場所でもあるとのこと。
ある時、その蜜柑の木をわざわざ見に行った。前から気になっていたのだ。
間近で見るのは初めてだが、まず尋常な雰囲気ではない。
一番外側の柵には、縄が幾重にも巻きつけてある。
ぶら下がっているのは御札であろうか。読めないので詳しくはわからない。
柵囲いの中で、収穫されない蜜柑が地に落ちてグズグズになっていた。
彼女の目は落ちた蜜柑に釘付けになった。
落ちて間もない蜜柑、かなりの時間が経った蜜柑、そのすべてが一つの例外もなく、破れて覗いている中身だけ、まるで腐っているかのようにどす黒かった。
・・・外側の果皮には何ら異常は見られないのに。
何となく嫌なものを感じて、その場を離れた。
彼女はその蜜柑の木に関して、何か因縁があるのかと疑っているという。
「いやね、本家筋の人って自殺した人多いんですよ」
しかし面と向かってはとても聞けず、今もその木は健在であるそうだ。
山にまつわる怖い話23