大鰻

知り合いの話。

幼少時、実家の裏山で得体の知れない物を見たという。

山道を歩いていると、すぐ目の前を黒くて長い物が通り抜けたのだ。大きい。
蛇がするように横方向に見をくねらせながら、あっという間に藪の中へ消え去る。
それが通り過ぎた道の上には、粘液を思わせる光った筋が残されていた。
幸運だったのかどうか、彼の方にはまったく興味を示さなかったという。

家に帰ってから、父親に見たことを報告した。
「鰻だろう。あいつら川から川へ移動する時、地の上を這いやがるんだ」
縄をなう手を休めずに、平然と親父さんは答えた。
釈然としない彼はこう付け加えてみる。
「僕よりずっと大きかったんだけど・・・」

親父さんは生真面目な顔で頷きながら断言した。
「大鰻だったんだな」
この話題が続くことはそれきりなかったという。

山にまつわる怖い話23

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