友人の話。
仲間三人で夏山を縦走していた時のこと。 
崩れかけた廃屋を見つけたので、休憩がてらに入ってみることにした。 
柱も畳も酷く傷んでいたが、それなりに涼しく快適だったという。
一休みした彼らは、屋内をうろついてみることにした。 
部屋はどこも黴臭かったが、穴でも開いているのか明かりに困ることはない。
ぶらぶらと奥へ進んでいた彼らは、ある部屋の前で足を止めた。 
そこだけは襖が朽ちておらず、閉ざされたままだったのだ。 
よく見ると襖はまだ新しい物のようで、廃屋の中でそこだけ浮いて見えた。
「何でここだけ新しいんだ?」 
疑問に思って引き開けると、中はぼんやりとしたオレンジ色で満たされていた。 
数え切れないほどの蝋燭に囲まれて、白い布で覆われた雛壇が作ってある。 
檀上には位牌が並べてあり、線香の匂いが流れてきた。 
畳も柱も天井も、作られたばかりのようにピカピカに見えた。
そして部屋の真ん中には、白い木造の棺桶が据えられていた。
「失礼しましたっ」上擦った声で詫び、襖をできるだけ静かに閉めた。 
抜き足で入口まで戻ると、そこから全力で走って逃げたのだそうだ。 
山にまつわる怖い話23
