友人の話。
彼はかつて、山中で仲間とはぐれて遭難しかけたことがある。
不安から歩き続けた彼は、脱水症状を起こして倒れてしまった。
「俺、ここで死ぬんかなぁ。寂しいなぁ」
そんなことをぼんやり考えていると、さくりという音がすぐ近くで聞こえた。
「誰か来たっ!」
喜んで顔を上げた彼の目の前に、ずんぐりとした、何とも奇妙な者がいる。
身の丈は一メートルもないだろう。短い灰色の足には何も履いていなかった。
藁蓑のような物を身にまとい、手はその中なのか見えない。
茶色の髪の毛は変な形に広がっており、まるで大きな茸の傘のように思えた。
歯は真っ黒で、目のある場所にはぽっかりと穴が開いている。
ひっ!と思わず息を呑む。
しかし彼の様子を窺っていたそれも驚いたようで、くるりと身を返すとテッテケテッテケ逃げ出し、あっという間に山の暗がりに消えていった。
それから数時間後、彼は無事に仲間たちに発見された。
山を下りるまでには何とか回復できたという。
この話をしてくれた後、彼は私に問い掛けた。
「俺が見たあれって、一体何だったんだろうな。お前知ってる?」
・・・私は過去に、その地方に伝わる話を聞いたことがある。
キノコと呼ばれた怪の話。
小さな子供のような姿をしているが、その実は文字通り年経た茸なのだと。
茸のくせに足を生やして動き回り、杣人の弁当を盗み食いしたりしたらしい。
力尽きた動物を見つけると、その身体に胞子を植えて苗床にするとも聞いた。
起き上がる力があるうちは決して近よらないが。
お前が見たモノと同じ物の怪かどうかはわからないけどな。
そう答えると、彼は苦虫を潰したような顔をした。
山にまつわる怖い話25