首の無い猿

「夜道に気をつけろよ。首の無い猿が出るかもしれないから」

学生時代のサークル内で出来た嘘話。
帰りが遅くなったときに言う決り文句のいわゆる冗談で、何代も前の先輩から伝わっていた。
「首の無い猿」っていうのが絶妙な怪談ぽい響きなのか、知らない新人は大抵「何ですかそれ!」と食いついてくるのが面白かった。

ある日の夜遅い帰り道。サークルの友人が別れ際にお決まりの猿の首の冗談。
「怖え~気を付けるよ」と笑って分かれた。
自宅アパートに到着してカギを開けようとしていると、何か気配を感じた。

小さな影が近づいてくる・・犬?
街灯の明りの下入ってきたのは紛れも無く首の無い猿!
ひょこ・・ひょこ・・と手を広げた50センチくらいの小さな首の無い猿。

全身に寒気が走り猛烈な吐き気が。ああこれが本当の恐怖ってやつか。と妙に醒めた自分が居たのを覚えている。
猿はそのまま暗がりへひょこひょこ消えていった。

いったいあれは何だったのか。「首の無い猿」は全くの嘘話のはず。
ヒトラーの宣伝相ゲッペルズは「嘘も100回言えば本当になる」なんて言っていたそうだ。
何百回何千回重ねられた嘘が力を持って現実になったのかもしれない。
忘れの出来ない不思議で恐ろしい体験でした。

不可解な体験、謎な話~enigma~ 38

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