引っ張られる沼

山というか沼の話になってしまうんだけど、実家の裏山を登って降りたところにある窪地に、年中山陰のためにくるぶしが出るぐらいの深さで六畳程度の小さな沼がある。

まっちゃん沼と呼び、その昔まっちゃんという子が溺れ死んだからとか言われていたが、あんな浅い所で溺れるわけがないのは幼稚園児でも分るような、底なし沼でもないので小さな子供が遊んでも害はない水溜りのようなものだ。

最初に起きたのは明治時代の話らしいが集落で一番賢い人が突然いなくなって、この沼で呆けていたそうだ。それからというもの勉強熱心な人がある日突然この沼に吸い寄せられて呆けて見つかるので、すぐに助けにいくので人が死んだという事はない。

沼から引っ張り出そうとすると大暴れをして奇声をあげるので、縄でぐるぐる巻きにして、口に布をつっこんで山から担いで運び出し、外聞が悪いのかとりあえずは狐憑きじゃないかということで、力尽きて眠りだすまで寺でお経をあげてから病院に連れて行く。

私が8歳の頃に大学受験の勉強をしていた叔父がこの妙な現象になり、現場は見てはいないが、寺で坊様がお経を上げているのを見に行って、障子を開けて隙間からのぞいて、怖くなって泣き、障子を閉めてまたしばらくすると障子を開けて泣き、をくりかえしたのは覚えているが、肝心の暴れている叔父の姿は見えなかったが、なんせ子供なのでとにかく怖かった。

目が覚めると記憶にないそうで、叔父も記憶にないので本人より周りが大騒ぎしている状態でそのまま受験勉強を普通に続けて大学に受かったし、私や同級生はしばらくは怖くて、この沼に近寄らなかったが、ザリガニがよくとれるので半年もしたら普通に遊びにいった。

この謎の現象は怪我で勉強が遅れたりはするが、良い事も悪い事もないようで、叔父のように勉強の結果が反映する人もいるし、ノイローゼになって勉強を止めてしまった人もいたそうだ。

まあ人が死ぬわけでも怪奇現象が起こるわけでもないので、自然現象みたいなものとして関心がもたれないので、今も昔もこれといって何もしないで沼はほっとかれている。

むしろ沼に連れて行かれるぐらい真剣に勉強しているのは賞賛すべきことのような扱いで、私のような勉強嫌いには迷惑な現象だった。

山にまつわる怖い話37

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