真っ黒な影

知り合いの話。

アメリカのある国立公園でトレッキングに参加した時のこと。

幾つも連なっている、急なスイッチバックの岩道を抜けた先で休憩を取った。
そこには小川が流れていて、何の気なしに近よって覗き込んでみたという。

水面に映った彼女の肩越しに、何かが一緒に水面を覗いていた。
恐らくは人の頭。目も鼻も見えない真っ黒な影の中に、白い歯だけが浮かんでいる。
まるでニヤリと笑っているように見えた。

悲鳴を上げるや影は掻き消え、彼女は後ろに尻餅を付いてしまった。
駆け寄ってきたインディアンのガイドに、しどろもどろになりながら、片言の英語で自分が見た物を説明した。

ガイドはニコリともせずにこう告げた。
「それはあなたの祖霊。あなたを護ってくれている」

それにしては、気味の悪いニヤニヤ笑いだったんですけど・・・。
こう付け加えると、ガイドはやはり表情を変えずにこう続けた。
「それは山の悪霊。しばらく身の回りに注意した方が良い」

・・・どっちなんだよっ!?
思わずそう喚きたくなったという。
ちなみにそのトレッキング中、それ以上の異変は起こらなかったらしい。
しかし、気分はどうにも冴えなかったのだそうだ。

山にまつわる怖い話27

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