まだ小学1年生か2年生くらいだったと思います。
僕の家の横は旧神社跡地で、今はゲートボール場になっているのですが、昔はそこに1本の大きな神木がありました。楠だったと思います。
他にあると言えば石段と何かよく分からない石碑、そしてその石段を境にして僕の家と神木がありました。
両親が共働きだった僕は、よくその木に寄りかかって愚痴や自慢などを木に向かって話していたのを覚えています。
秋~冬にかけてだったでしょうか、その日も僕は木に寄りかかり木に向かっていつもの様に話し掛けていました。
日も暮れるのも大分早くなっていますから、あっという間に夜の闇が近付いて来ます。
と言っても僕の家は隣なわけですから、別段急ぐわけでもなく、いつもの様に石段を降り家に戻ろうとした時です。
「せぇのぉ・・・」
何か後ろから声が聞こえたような気がしてハッと振り返るのですが、誰もいない。
気のせいかと思い、その時は特に何も気にせず家に帰りました。
家に帰り風呂から出た僕は、何とはなしにふとベランダから木の方を見ました。
あまり車も通らない場所ですから、家の周りは静けさが漂っており、風に揺れる木の葉と、それを照らす月光が、とても幻想的で、風もひんやりと心地良い。
ギィ・・・ギィ・・・
何か軋むような音がする。
その場所を目を凝らしてよく見ると何かが木からぶらさがっており、ゆらゆらと揺れている。
(あれは・・・人だ・・・!!)
幼いながらに首吊りというのは知っていました。
ふと気付くと視線を感じる。
目をやると二つの目玉がこちらを見て「ニヤリ・・・」と歪んだ笑みを浮かべていました。
慌てて部屋に戻りベッドに入ったものの、その日は全く眠れませんでした。
それからしばらく木には近付かないまま、年を越しました。
あの日のことは新聞やニュースにもなっていなかったので、僕の中でも「あれは錯覚だったのかな・・・?」と整理され、遠い過去として頭の片隅に追いやっていました。
そんな忘れかけていたある日、何の気なしに僕はあの木の下にいました。
常葉樹のためか木には葉が残り、それに積もった雪が屋根のように陽を遮っています。
何をするでもなく木に寄りかかっていると、静けさの中に何か音が聞こえて来ます。
「ねんね・・・ころ・・・や・・・おこ・・・ろ・・・や・・・・・・」
はっとして上を見ると、僕の顔の真上に裸足が一対あり、よく見上げると、遥か上の枝からきりんのように首の伸びた人であったろうモノがゆらゆらと僕の眼前で揺れていました。
「い゛ぃ・・・っ・・・」と僕の喉の奥から叫びにもならない音がし、驚いて飛び退いた瞬間、ぶつり・・・という音と同時にソレは僕の足元に降って来ました。
人としての形は完全に崩れており、その背中であったろう場所には子供の形をした赤黒い肉塊がべっとりと張り付いていました。
大急ぎで石段を降りたところで何か背後に寒気を感じ振り返ると、何かボールのようなものがぐちゃり・・・ぐちゃり・・・と転がり落ちて来、まるで僕の両手に収まる予定であったかのように、何故だか僕はソレをキャッチしていました。
ボールよりは人の顔に近い、とはいえ頭蓋からは肉が飛び出し、唇の裂けたソレは、全く身動きのとれない僕に、『あの日』のように「にちゃり・・・」と笑いかけて来ました。
「坊んも・・・逝くか・・・」
そのまま僕は意識を失い、気が付けば隣家のおばさんが僕を見つめていました。
何があったか?と聞いてくるおばさんにどう答えれば良いのかも分からず、僕自身もあやふやなままその体験は幕を閉じました。
昔あの場所で何があったのかは全く知らないままなのですが、 その木の根元には毎年二本だけ彼岸花が咲きます。
死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?196