後輩の話。
学生時代に山の中、一人で藪漕ぎをしている時のことだ。
いつの間にか、すぐ近くからおかしな音が聞こえ始めた。
「ガツ・・・ムシャムシャ・・・」と、まるで何かを食べているかのような咀嚼音。
気になって周囲を見回したが、どう見ても藪の中には彼しかいない。
出来るだけ早く藪を抜けることにした。
そのうちに「ガリッ!」と固い物を齧り砕く音や、「ペチャ・・・ズズッ・・・」と汁気を啜るような音まで聞こえ出す。
しかし相変わらず、何の姿も確認出来ない。
やっとの思いで藪を抜けると、背後から一際大きな音が投げられた。
「ゲェッッップ!」と、やけに下品な音だった。
それを最後に、怪しい音は聞こえなくなったという。
「無茶苦茶怖かったですよ、本当に」彼はそう言って口元を歪めていた。
山にまつわる怖い話28