揺れる灯り

同僚の話。

仲間内で花見をした帰り道、忘れ物に気が付いて引き返した。
翠草の上に落とした携帯電話を無事見つけ、さぁ帰ろうと腰を上げた矢先。
少し離れた空き地で、揺れる灯りが見えた。火がチロチロと燃えている。

誰だっ、火の始末もせずに帰った奴ァ!
酔いが一気に覚め、慌てて消し止めようと走り寄った。
だが、いざ空き地に入ってみると、どこにも火など燃えていない。
少し湿った草々はどこも冷えていて、焚火をした痕跡すら見当たらない。

首を傾げながら花見場所まで戻ってくると、パチパチと爆ぜる音がした。
振り返ると、やはりあの空き地で火が揺れていた。
しかし今度はそれだけでなく、火の周りに何やら動く黒い影も薄ら見えた。
人が大勢で騒ぎ、歌など歌っているような声までが聞こえてくる。

もう一度だけ空き地に足を踏み入れ、どこにも火の気が無いことを確認すると、彼は出来るだけゆっくりと帰途に着いた。
背後から再び物音が聞こえたが、もう絶対に振り向かなかったという。

山にまつわる怖い話28

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