江戸時代の頃。
とある村の若者達は、冬の間、丹波の奥へ木びきに雇われて行っていたそうな。
木びきたちの小屋の外で、夜になるときまって「ホー、ホー」という呼び声がきこえてきたそうな。
ふくろうの声かと思うとそうでもなく、もっとずしりと重く背中が寒くなるような声なのだそうだ。
もし、その声のまねをして「ホー、ホー」とやると、その者は何かにつかれたように外へ出て行き、そのまま、行方不明になってしまう…。
が、外の声に応じて「ホー、ホー」と言い続けていると何もおこらないということだ。
これは言い伝えによれば「グニさん」という物の怪の仕業ということらしい。
ある晩、若者達は退屈しのぎに、グニさんをからかってやろうということになり、いつものように森の奥から「ホー、ホー」がきこえてくると、「ホー、ホー」と呼び返す。
これを、順番に繰り返していたそうな。
すると、その声はだんだん小屋に近づいてきて、とうとう屋根の上で聞こえるようになった。
若者達は、さすがに怖くなってきたが、途中で止めるわけにはいかない。
小屋の中では若者達が交代で、必死に「ホー、ホー」と続けていた。
夜が明けるにつれて、外の声がだんだんかすれてきて、とうとう聞こえなくなる。
すっかり夜があけたので、外へ出てみると小屋のまわりにおびただしい血が流れ、その血が山の奥へと続いており、その血をたどって行くと、山奥のある大木のところでとぎれ、そこに身体は人間でくちばしがあり、手に羽根の生えた怪物が倒れていた…。
この民話は、はりまの伝説(加東郡編)等に収録されていたもので、「グニさん」と若者達の必死さが、なんとなく面白かったので、印象に残っているお話でした。
山にまつわる怖い話43