二足の草鞋

怖い、というよりは不思議な話。ちょっと長文スマンです。

数年前、北海道の幌尻岳を夫と共に登りに行った。

山頂に行くルートには、途中渓流にコースをとる必要があり、多少水深の深い所も渡渉せざるを得ず、簡単な沢登りの装備(といっても沢靴or草鞋と地下足袋等)が必要だったのだが、山登りの経験はそこそこ豊富でも沢登りに関しては初心者同然だった私たちは、ホームセンターで買った土木作業員向けの地下足袋と、数年前にお土産屋さんで買った部屋履き同然の簡素なつくりの草履で何とかなるさ、みたいに気軽に考えて、何なら北海道についてから入手すればいいさ、と甘く考えていた。

本当に甘かった、と後悔するのは現地についてから。
飛行機を降りてから何件か店を巡っても草鞋そのものの取り扱いが無く、また沢靴を買うにはちょっと懐が厳しく、なりゆきで結局手持ちの草履で行くことに。

不安いっぱいの気持ちで渡渉ポイントまでの山道を歩き、いざ地下足袋と草履に履き替えようと袋から出すと、持参の草履は藁の部分があちこちで千切れてかけていた。

この草鞋駄目だ…、と思い、せめて地下足袋だけで行けるかな?といざ水流の中に足を踏み入れると一瞬にしてバランスを崩し、コケそうになった…orz。

もうどうしようもない絶望感に夫婦してうちひしがれ、頭をうな垂れかけたその時、
「?」
視界の端に何かが写り、目を凝らして見ると、岩陰に二足の草鞋が。

それも踵もしっかりと包み込み、足首で縛るタイプのしっかりした草鞋で、大きいのと中くらいのがそれぞれ一足づつ、きちんと並べておいてあった。
「誰かの忘れ物かな?」
とは言え、登山道からここに到るまで誰にもすれ違っていないし、草履も多少の使用感はあったものの殆ど新品同然といえる状態。

夫と二人顔を見合し、「これはきっと神様からの贈り物に違いないよ、有難く使わせて頂こう」という事で、見えない何かに向かって頭を下げて草鞋を装着してみると、、これが驚くほどぴったりで、地下足袋の足にしっくり馴染んだ。
そのお陰で、滑りやすい沢で一度も転ぶことも無く、最後まで快適に沢の中を進むことが出来、その後若干の天候の乱れもあったものの、何とか無事に山頂に到着。

また帰りの渡渉でも、草履は若干くたびれた感じであったものの全く問題なく沢の中を威力を発揮していたのが、最初にその草履を見つけた場所、…つまり渡渉の出発地点に辿り着いた途端、その草履はバラバラとほどけてほぼ原型を留めぬ姿に変り果ててしまった、のです。

改めて、夫と二人「助けてくれて有難うございました」と手を合わせ、元あった場所に草履を戻して帰途につきました。

・・・後日談
ちなみに、自宅から持参した方の草履は、下山後札幌の街中でサンダル代わりに履いていたのですが、こちらは徐々に崩壊し、(気が付くと)狸小路を裸足に近い状態で歩く羽目になり、泣く泣く泥だらけの登山靴に履き替える事となりました・・・orz。

山にまつわる怖い話45

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする