先輩の話。
一人で山奥に籠もっていた時のこと。
そろそろ寝るかと、焚き火を落とす準備をしていると、突然声が掛けられた。
「」樹上から誰かが呼んでいる。
こんな場所でこんな時間に、一体誰だ?
顔を上げたが、明かりの届く範囲には誰の姿も見当たらない。
と次の瞬間、気が付いてしまった。
かなり離れた場所の木々の影、それよりもっと高い位置で、緑に輝く二つの点。
非常に大きな何かが、ずうっと上の方から、彼を静かに見下ろしていた。
腰が抜けた。身動ぎ一つ出来ないまま、震える視線を足下に向ける。
どれくらい経っただろうか。再び顔を上げると、いつの間にか、緑光は見えなくなっていた。
その後はもう一睡も出来ず、夜が明けるや一目散に下山したのだそうだ。
山にまつわる怖い話36