仕事仲間の話。
山奥の現場でポンプを調整していると、どこからか「おーい」と呼び掛けられた。
顔を上げて周囲を見たが、彼以外に誰もいない。
尚も繰り返す呼び掛けに「誰か呼んだかー?」と声を張り上げた。
次の瞬間、激痛が彼を襲った。手首が焼けるように熱い!
腕時計が白熱したのだと頭が理解する前に、それを剥ぎ取って投げ捨てていた。
地に落ちた腕時計はジュッ!と音を立て、微かに陽炎を発していたらしい。
気が付くと、傍らの工具箱が飴のように変形して柔らかくなっていた。
金気の工具類が、軒並み手で触れないほどの高温に達していたためだった。
気が付くと、声は聞こえなくなっていた。
「でもその日はずっとね、金属に手を触れるのが怖かったよ。いや、声と熱が関係あるのかはわからないけどな」
左手首に付いた腕時計大の火傷を見せてくれながら、彼はこの話をしてくれた。
山にまつわる怖い話36