先輩の話。
一人で夏山を縦走していた時のこと。
踏み分け道を外れた辺りから、「おーい」と呼ぶ声がした。
誰か怪我でもしたのかと思い、「どうしましたー?」と返しながら声に近づく。
返事がないことを訝りながら進むうち、開けた場所に出た。
誰もいない。大きな灰色の石が一つ、広場の真ん中にポツンとあるだけだ。
奇妙なことに石の表面には、破れかけた御札が何枚も張られてある。
声はここらから聞こえた筈だけど。辺りを見回していると、突然大声が響いた。
「おーいっ!」
間違いなく、目の前の大石からその声は発せられていた。
くるりと踵を返すと、道まで一目散に駆け戻ったそうだ。
山にまつわる怖い話36