おーい1

先輩の話。

一人で夏山を縦走していた時のこと。

踏み分け道を外れた辺りから、「おーい」と呼ぶ声がした。
誰か怪我でもしたのかと思い、「どうしましたー?」と返しながら声に近づく。
返事がないことを訝りながら進むうち、開けた場所に出た。

誰もいない。大きな灰色の石が一つ、広場の真ん中にポツンとあるだけだ。
奇妙なことに石の表面には、破れかけた御札が何枚も張られてある。
声はここらから聞こえた筈だけど。辺りを見回していると、突然大声が響いた。

「おーいっ!」

間違いなく、目の前の大石からその声は発せられていた。
くるりと踵を返すと、道まで一目散に駆け戻ったそうだ。

山にまつわる怖い話36

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