奇祭

中学生の夏休みに母方の実家に泊まりに行ったんです。
九州の某県の結構山奥にある村(今は村じゃないです)です。
村奥にあった唯一の神社では毎月小さな祭りが行われていました。
丁度私が訪れた月は奇祭、じゃないですけど一風変わった祭りがあったんです。
猫の結婚式を行うという主旨の物でした。

昔、穀物を食い荒らす鼠を捕まえる猫は重宝されていましたが、なかなか数は増えなかったため“猫の結婚式”と言う変わった祭りを行うようになったのだそうです。
内容は変わってますが由縁はありきたりですね。

そのユニークさから離れた町の人たちもペット連れで訪れるようになり、今では猫の結婚式ではなく犬やハムスター等ペット全般のお祓いがメインに行われています。
私も祖母の家で飼っていた茶トラの『虎』を連れて祭りを見に行きました。

神前式とか舞とか行われる所で猫の婚礼の儀式が行われました。
赤い首輪を付けた白い猫が二匹神前の前に眠っています。
簡単な祝詞、形ばかりの三三九度が行われ、巫女さんによる舞が奉納されました。

豊栄の舞と言うらしいです。
その舞の中盤、飼い主に連れてこられていた猫たちが鳴き始めたんです。
そして飼い主の腕から逃げ、飼い主と参加していたほとんどの猫が外に出て行ってしまいました。虎もです。
退席して探しに行ったんですが見つかりませんでした。

私は夕食の前こっそり家を抜け出し今度は一人で探しました。
夢中で探し回る内に全く知らない場所に来てしまいました。
後で聞いた話ではそこは村では暗黙の立ち入り禁止区域だったそうです。

そんな事を知らない私はずんずん奥へ進みました。
すると小さな社の様なものが見えました。
そこで猫の鳴き声が聞こえたので行ってみると……

お食事中の方はごめんなさい、(いるだろうか)社の中を覗くとお札に混じって猫の死骸が何体かあったんです。
足の方からゾゾゾと鳥肌が立ち…次の瞬間逃げてました。
何分かめちゃくちゃに走ると母が私を捜して道を歩いていました。
私は母にさっき見た事について話しました。

すると母は
「それ誰にも言っちゃだめよ」
それだけ言ってあとは無言で私を祖母の家まで引っ張っていきました。
結局次の日虎は帰ってきたんですけど、一緒に祭りに行った隣の猫は帰ってくることはなかったそうです。

その二年後に再び同じ祭りを見に行きました。今度は猫は連れて行きませんでした。
舞が始まるとやはり何匹かの猫が鳴き始め外に逃げ出してしまったのです。
そして飼い主がそれを追いかけて一緒に退席します。
儀式が終わり私はおみくじを買ってました。

その時小さな女の子が黒い子猫を抱いて嬉しそうに話す声が聞こえてきたのです。
「うちのリンス(猫の名前と思われる)は今年も見つかって良かったね!」
それを母親が慌てて遮りそそくさと去っていったのです。

猫が見つかったのが嬉しいという様子の女の子。
これ自体は別に変じゃないんです。
その時の母親の反応や「今年は」と言う言葉が引っかかりました。
何となく不気味な物を感じます。
もしかしたら深い意味はなかったのかも知れません。
ですが二年前あの残酷な猫の死骸を目撃してしまった私としては、どうしても深読みしてしまうのです。

あの社に入れられた死骸は供養されてただけか、それとも別の意味でもあるのか分かりません。
この村、今は村ではありませんが神社は残ってます。
お祭りはあってるかどうか分かりません。
ちなみに母に久しぶりにこの事を話しても「そんな昔のこと忘れた」と笑うだけです。

ほんのりと怖い話32

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