お悔やみ爺さん

私の住んでる町には有線放送がある。
音楽などが流れる有線ラジオではなくて、田舎に昔からある、町役場からのお知らせや防災情報などが流れる有線だ。

朝晩の放送のほとんどは中年の女性の声が流れるんだけど、なぜか夜7時頃の『町内のお悔やみ情報』だけは、以前から、しわがれた声のおじいさんが粛々と読み上げる決まり。

「なんか陰気な声だよね」
「でも、お悔やみには似合ってるんかもね」
『お悔やみ爺さん』というひどいアダナを妹と私でつけていた。

で、1ヶ月ほど前、『お悔やみ爺さん』のいつもの放送が始まり、
「○○地区の△△△△さんが今朝、亡くなられました—」
妹がとっさに「はあ?ウソだ~△△さん見かけたもん」

△△さんは60歳代のおじさん。家は私たちのすぐ近所で、その日の昼ごろに△△さん本人が庭先に出ているのを、タバコを買いに出かけた妹が確かに見たという。

「あ~あ、名前を間違えたんでしょ、やばいね」
などと言ってると、混線したような大きな雑音がブッブッと入り、復活したかと思ったら中年の女性の声に変わっていきなり
「皆さん、こんばんは。町内の秋の運動会の日程が—」
とかなんとか放送されはじめた。
お悔やみの続きはどうなったんかい、と気になりつつその夜は終わった。

翌日朝9時頃。隣のおばさんから「△△さんが今朝亡くなった」と有線電話がかかってきた。死因は脳溢血。
うちら家族一同、肝を潰した。

葬儀も終わって暫くしてから、隣のおばさんに
「△△さんの亡くなった前日の有線、覚えていますか?」と尋ねたら
「そんなの聴いてない、縁起でもないことを」と一笑に付された。

おばさんだけでなく、他の住民におそるおそる尋ねても誰もそんな放送は聞いていない、聞けば驚いて覚えているはずだし、と言う。

いまも毎日、『お悔やみ爺さん』の淡々とした声が有線から流れてくる。
聞くのが怖いけどつい聞いてしまう。
いったいあれは何だったんだろう。

ほんのりと怖い話42

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