元の寂れた神社の話。
延喜式的にはそこそこのランクらしいが、社務所もなく、神主は常駐していない(近所に住んではいる)。
で、一人でこの神社に入ると必ず女性が掃除している。
何時も同じ、夜会巻きみたいな髪型の30前後の地味な女性。
神社の前を通って中を覗くだけ・他の人と一緒に入る時は見かけないが、一人で入った場合は例外なく必ず居る。
神社以外で見かけたことはなく、間違いなく地元民ではない。
神主の親戚縁者でもないことは確認済み。
自分だけでなく、地元の友人勢も同じ条件下でのみ彼女と遭遇している。
会釈すれば相手も会釈を返してくれるが言葉を交わしたことはなく、こちらが「こんにちは」と言っても返ってくるのは会釈のみ。
遭遇が度重なってどういう人なのか気になったため両親に訊いてみると、そういう人は知らないとのこと。
父曰く、父が高校生になるあたりまではよく似た女性がいつも掃除してくれていたが、何処の誰かは不明という話だった。
結局どういう人なのかは解らなかったものの、父の話を聞いて自分が見かけるのはその人の娘さんか何かだろうと、とりあえず納得した。
とはいえ遭遇回数と見る時・見ない時の条件に例外が一切無いことから、不思議を通り越して若干気味が悪くなってきて、神社に近付かなくなった。
ここまでが小学校高学年くらいまでの話。
中学二年あたりから個人塾に通うようになったのだが、中三のある時帰宅がえらく遅くなった。塾を出たのが23時50分ごろ。
神社を通り抜けすると大分近道になる。
早く帰りたかったし、その頃は正直女性のことは忘れていたので自転車に乗ったまま通り抜けようとしたところ、0時前後だというのに例の女性が居た。
以前見た時同様竹箒で落葉を掃いている。
鳥居をくぐってすぐに気付き、思わず急ブレーキした。
女性は本殿近くに居たので結構距離はあったはずなんだが、何か言おうと口を開いたのが何故かはっきりと解った。無表情だった。
普通に考えたら「夜遅くまで危ない」とかそういうことを言おうとしたんだろうと思うが、その時は「この人の声を聞いたらいけない」と強く感じ、慌ててターン。
今まで霊的に怖いというのではなく、何か危ない人なのではないかという怖さだったんだが、この時は「この人絶対人間じゃない」と感じた。
背筋を寒気が上るというか、血の気が引くというか、とにかくちょっと不気味なんてものではなく、身体が本能的に何かを拒絶した感じだった。
全速力で家までこぎ続けたが、神社の周りを走る形になるのでえらい怖かった。
後日昼間に一人で神社に行ってみたが、女性は居なかった。
以来一度もあの女性は見かけない。
その後友人たちにも聞いてみたが、今も見るという人と見かけない人とがいて、
高校に上がる前後までには全員見なくなっていたと思う。
で、最近実家に帰ったら、自分に懐いてる近所の中学一年生男子から神社で掃除をしている女性の話を聞かされた。
聞けば容姿・外見年齢は約15年前自分が見た女性とよく似ている。
聞く限り、遭遇条件もかつて自分たちが経験したものと同一。
地元以外の熱心な信者一家だとか、全員が同条件下でしか見ないのは単なる偶然だとか、あの夜あんなに恐ろしく感じたのはシチュエーションに惑わされただけだとか、年齢を感じさせないタイプの人だっているとか、まあ幾らでも説明はつく。
ただ、とりあえずよく似た女性を、一定条件下でのみ高校に上がる前後までの歳の子だけが何十年も見続けているらしい、という話。
ほんのりと怖い話64