15.6人程の集団

まだ幼いころ、確か小学校3年くらいだったかなぁ。
どこの山だったか忘れたけど、学校の行事で遠足に行った時の話。

田舎の学校でそんなに生徒数がいる訳でもなかったので、10数位ずつ一人の先生が引率して、グループで歩いたんだけど、その先生がすごく年配で山に詳しい先生で、山についていろいろ話してくれた。
植物とか動物とか、後は忘れたけどなんかの民俗学的な話だったと思う。
普段は厳しくてそんなに人気のある先生って訳じゃなかったけど。
その時は優しそうに話してくれたから、生徒も楽しい感じで和気藹々としていた。

そんな感じでずっと登山を続けていて、特にトラブルに会うこともなかったけど、山の中腹よりちょっと上のあたり、木々に囲まれて薄暗く、少し銀色がかった木漏れ日が多少入ってくる程度の地点、みんな足に疲れを感じ始めたくらいの頃に、その先生が急にこう叫んだ。

「左側に寄りなさい!」

それは叫んだというにはとても小さな声で、でも、その口調は確かに、”叫んだ”と表現するのが適切だったような記憶が、10年たった今でも残っている。
先生が急に怯えはじめ、何かを避けようとしている意図を、まだ10歳程度の子供たちにも伝えるには、十分すぎる声だった。

とはいえ、生徒は皆、具体的に何が起きているのかさっぱり理解できておらず、ただ、恐怖とも興奮とも違う、異様な緊張感だけが漂っていた。
そして先生は、最初の指示から少し間を空け、さっきより少しだけ落ち着いた声で言った。

「足を止めて、顔を下げなさい。そして、絶対に顔を上げちゃだめ。」

みんな何がなんだか訳がわからず、ただ必死にそれに従い、立ち止まり、顔を下げてひたすら下ばかり見ていた。
やがて、20秒ほどその状態でいると、自分たちの右脇を、15.6人程の集団が通ろうとしているのを感じた。

道は4m程の幅があって、こちらは左端に寄っており、その集団は、右半分のちょうど真ん中くらいのラインを歩いていたので、すぐ側ではなく、少なくとも3m位の間隔は空いていたと思う。
俺はどうしても気になり、ほんの少しだけ斜めに視線を動かし、その集団のほうをおそるおそる見た。

山頂に着き、他のグループみんなと合流し、学校側で用意されていた昼食を食べた。
空はそんなに青くはなかったが、山道の暗さとのギャップで凄く明るいように感じた。
あの遭遇以来、山頂に着くまで、先生は生徒と一言も口を利かず、先頭を歩いていた。
その二列後ろを歩いていた俺は、先生の表情はさっぱり伺えなかったけど、皺の目立つ、いかにも年配の大人らしい手が、小刻みに震えているのがわかった。

先に山頂についていた若い先生に、「うちの班は何も問題なかったですよ。」と語ったときは、山について優しげに語っていたときの口調に戻っていた。
みんな胸をなでおろして、堰を切ったように緊張感が取れたようだったが、俺は、その手がまだ震えているのを、確かに見ていた。

それから、その先生とも、その場にいた友人たちともその話題になることは一切無かった。
当時は忘れていたのか、偶然話題になら無かっただけなのか、はっきりしないが、とにかく、あれから10年もの間、そのことについて語った記憶がまったく無い。
あれは、あの集団は一体何だったのか?今になって時々思い出し、考えるが、さっぱり見当もつかず、忙しい毎日の中、考えても無益なことだと諦めてしまう。

ただ、あの時、横目でちらっと一瞬だけ見えた、あのドラマでも、映画でも、漫画でも見たことも無いような異様な形の履物だけは今でもはっきりと思い出すことができる。

ほんのりと怖い話69

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

コメント

  1. 匿名 より:

    16人目の40%がどうなったか気になって
    話が入ってこない

  2. 匿名 より:

    それより異様な履物がどんなだったか描写して欲しかった。