かなり昔の話ですが、記憶が確かな限り実話です。
小学校のころ、カブスカウト(ボーイスカウトのひとつ下)の合宿でお寺がやってる山の中の民宿(?)に夏休みに泊まりに行ったときのこと。
そのお寺には珍しい「笑い地蔵」というやつが沢山あって、その笑い顔だけで結構怖かったんだけど、そこの住職が夜に本堂で怪談をし始めてビビリの僕は思わず耳を塞いでいた。
怪談話がやっと終わって就寝の時間になった。
僕たちの班は四人部屋で、2段ベットが2つあるだけだった。
さて寝よう、という段になって部屋の前を別の班の奴らがヒソヒソ話をしながら通りすぎた。
「・・・この部屋よなあ・・」とか言っていたので気になって問い詰めると、さっきの住職の怪談はこの部屋の窓の真下にある寺の蔵(だったと思う)にまつわる話だったそうで、この部屋にも夜中変なことが起こるとか言っていたそうである。
怖くなって具体的な話を聞かずに部屋に帰ったら、よりにもよって同じ部屋の3人も住職の話に耳を塞いでいたという。 そうして怖がり男ばかりの部屋にも引率のリーダーがやってきて「消灯して寝ろ」というのである。
四人とも中途半端に知ってしまってかなり怯えていたが、同じベットで寝るというのも情けない話だったので仕方なくそれぞれのベットで眠りに入った。
僕は寝相が悪かったので下のベットを使っていたのだが、怖くて眠れたもんじゃなかった。
しかし昼間さんざん遊びまわっていたので疲れがドッと出てきていつの間にか眠っていた。
で、夜中体に衝撃が走って目が覚めた。
ああ、ベットから落ちたんだと気付いてからのろのろとベットに這い上がろうと手探りしていたら、ない。ベットがない。
視力が悪い上に暗やみだったので事態を把握するのに時間がかかった。
僕は部屋の両端にある2段ベットのちょうど真ん中、つまり部屋の真ん中の板張りの上にいたのだ。
なんでこんなところに?
あの衝撃は確かに落下した時の衝撃だったのに。
ぼおっとした頭のまま自分のベットにもどるとジワジワと怖さが湧きあがってきて、「おい」という声に心臓が縮み上がった。
「おい、K(僕の名)、起きとるんか・・」隣のベットのSのぼそぼそとした小声だった。
内心どきどきしながらも「どうした」と2段ベットの上に小声で呼びかける。
「ちょう、来て。頼む」Sが変に押し殺した声でベットの上からいっていたけれど、こちらは起きてる仲間がいたという安堵感も少しあり、「なんや」と隣のベットに上がっていった。
その立て梯子をのぼる途中でSが言ったのである。
「俺の頭の上のガラス(ガラス窓)、ずうっと叩きよるヤツがおる」
思わず足が止まった。
僕の顔がSのベットに半分ぐらい出たところだった。
Sは窓の反対側で頭からふとんをかぶって震えていた。
そして僕にも聞こえたのである。
コン、コンと。
そっちを向こうにも顔が金縛りのようになって向けなかった。
向いていれば何が見えたのだろうか。
ともかく僕はその時梯子をそのままの姿勢で飛び降りてしまい、うまく着地できずに体をしたたかに打った。
そして気を失った、らしい。
朝気がつくとリーダーとお寺の人が僕を介抱していた。
落ちたときの音では大人たちは気がつかなかったらしく、朝の見回りで床に倒れている僕を発見したらしい。ちょうど部屋の真ん中だったそうだ。
幸い大した怪我もなく、すぐに普通に歩けるようになったがリーダーが凄い剣幕で住職に食って掛かっていた。子どもはそういう話に影響を受けやすいから・・ウンたらカンたら。
昨日の怪談話がやりすぎだったと怒っているらしい。
子どもながらに責任転嫁だと思ったが住職は平謝りだった。
あとでSに夜の事を聞いてみたらSは青い顔をして覚えてないという。
食い下がったが結局Sがひどく怯えていることしか分からなかった。
あるいは僕が落ちたのにすぐ助けなかったから気まずいのかもしれないと思った。
かわりに同じ部屋のあとの二人から意外な話を聞いた。
ひとりは「夜中目が覚めて窓のそとに黄色い煙みたいなのを見た」といい、もうひとりは「夜中窓をドンドンと凄い音で叩く音を聞いた」という。
全員が何らかの異変にあっていたのだった。
この話をしていると大人たちが怒るのでほとんど話せずじまいだったが、ひとつ分かったことは昨晩の住職の怪談は「夜中この部屋の下の蔵から女のすすり泣きが聞こえる」という内容だったこと。
それとはあまり関係なかったがとにかく洒落にならない怖い記憶として僕の脳裏にこびりついている体験だった。
死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?5