壁の瓢箪

これは自分が直接Aから聞いた紛れも無い実話ね。
洒落にならない程怖いかどうかは聞いた人によるから自信はないけど、良かったらどうぞ。

自分が中学の頃の話だけど、友達の家がヤバかった。

その頃友達(以下A)が越して来て親が新築して建てた家で、元々その場所は周りに建ち並ぶ家々の一番端にあった空き地だった。

説明が下手だけど、Aの家の正面には従来の多い通りに出る道が一本と近所の人間が使う道が一本Aの家から見てLを描くように通っている。
自分も子供の頃からチャリでよくこの目の前を通っていたからよく覚えているけど、その土地の一角だけ土地が売れなかったのか自分が中学校に上がるまでそこは長い間ずっと空き地だった。

Aの家のすぐ後ろはちょっと臭う細いドブ川が流れていて、向かいには池沼なオヤジが住んでいて日頃から近所の人間に色々と文句を付けてくるというラッキーな所にあった。
自分も何度かオヤジに絡まれた事があって警戒していたけど、近所では割と有名なオヤジだったようだ。

話しを戻すが、Aは霊感が割と強くてそれは家系的なものだと言っていたが、自分は後からそれを聞かされたので、Aにそんな霊感があっただなんて当時は知りもしなかった。

今までAの家に何度か遊びに行った事があったけど、特に変わった事もなかったしな。

だけどある時…妙な物に気が付いたんだよね。

よく見ると家の中の所々の壁に幾つか連なった小さな瓢箪の飾り物が掛けてあった。
一見何の変哲もない飾り物だけど、何となく家のインテリアにそぐわない不思議な雰囲気を放っていた。

瓢箪の先端(尖った先)に小さな穴が空いていたような気がする。
その時は郷土土産か何かで、珍しいものだから飾ってるのかな?くらいにしか思わなかったんだが、後でこれが何故こんな風に壁に幾つも吊るしてあるのか理由が解ってしまった。

本題のAの部屋は二階にあって、階段を昇った先の廊下のスペースには黒いピアノが置いてあった。
Aの部屋は八畳程の広さで、ベッドのすぐ脇には窓がある。
その部屋で当時流行っていたものなんかで遊んだりしてごく普通に過ごしていたんだが、それから何年も経たない内にA家族が急に引っ越すことになった。

Aの話によると良くない事が起きたり、気味の悪い物を頻繁に見たりで敵わなかったから家族会議の末に引っ越す事に決めたという。

自分が聞いた中でAが実際に体験して強烈だったものを挙げると..
ある日学校から帰って自分の部屋でくつろいでいると、部屋のすぐ横の廊下にあるピアノから急に鍵盤を叩く音がし始め明らかにそこで誰かが鍵盤を触っている風だったので、誰かが来たのかと部屋のドアを開けたらそこには誰も居ない。
ピアノを見ると蓋が閉まっていてピアノカバーも掛ったまま。

時間的にまだ家族誰一人と帰って来ていない事が分かって速攻で部屋に戻って「これはちょっと怖いな…」と考えていた矢先にまた連続して単音でピアノが鳴り始めたらしく、これはヤバいとラジオを爆音で流して気を紛らわせていた。
さっきドアを開けてみた時は一瞬だったので霊の姿なんかは見えなかったそうだ。

ちなみにAの部屋の隣に家は建っていない。
隣の家はAの部屋から一番離れた部屋の隣で駐車スペースも隔てているので、周りの家からだとしてもそんな間近で大きなピアノの音が聞こえるはずもなかった。

別の日には、やはり学校から帰ってきて一階の和室で親が帰って来るまでテレビでも見てようとお菓子を食べながら適当に転がってテレビを見ていたらしい。
正面にあるテレビ横の壁には大きな窓(全身サイズ)があって、陽が落ちて辺りが薄暗くなって来た頃に窓が気になり窓に目を向けて夕空を何となく眺めていたら、窓の上部にチラっと何かが動いて見えた。

「なんだ??」とそのまま目を凝らして見ていたら、ソレは人間の足先だったそうだ。
その足先は段々と脛、膝、太腿、腰、腹部…とゆっくり下がって来て胸の辺りまで差し掛かったところで余りの怖さにAは猛ダッシュして部屋に逃げ戻った。
突然の事に理解が出来ず心臓がバクバクいってパニック状態に陥っていた。

しかししばらく経って、食べかけのお菓子をそのまま置いて来てしまったのと、テレビを消し忘れた事、それにアレが何だったのかが気になってもう一度和室に戻ろうと勇気を出して階段をゆっくり下りて行くと、廊下の先にある和室の入り口に目が止まった。

老婆が手招きしながらそこに立っていた。
Aは完全にまたパニックになり近くのトイレに逃げ込んで鍵を掛けた。
するとすごい勢いでドアノブがガチャガチャガチャ!!!と外から開けられそうになり必死にドアノブを押さえて抵抗したという。

しばらくガチャガチャとドアノブが上下に激しく動き突然動きが止まった。
Aは家族が帰って来るまでそのままドアノブを押さえた状態でトイレの中から出られずにいた。
和室の窓から見えたものはAによると年老いた男性に見間違いないという。
それからは必要以外に和室に入る事はなくなったそうだ。
その後専門の人を呼んで家もお祓いをしてもらったと言っていた。

しかしある日。
雷が鳴り響く雨の夜での出来事。
ちなみに自分らの住む地域は雨の季節に入ると雷の多さが名物(?)になるほど雷がよくゴロゴロ鳴り響く。
子供の頃なんかは雷観察が楽しくて電気を消して窓から稲妻が光る様をよく見ていたものだ。

この日Aの父は仕事からまだ帰宅しておらず、Aの姉も彼氏と出掛けていてAは母と二人きりで家にいた。
外はバケツの水をひっくり返した様な雨が降り、雷が鳴り響いている。

時折バリバリッ!と走る稲妻にビビリながら「雷って怖いよなー」なんて考えていた矢先。
案の定雷が近くに落ちて周り近所一帯が停電。
家の中は真っ暗で、向いの家もやはり真っ暗。

以前見た怖い体験を思い出し、慌てて台所へ向かい懐中電灯を探す。
なんとか手に取ってそのまま一階のリビングにあるソファに体育座りをして明かりを点けると母親が二階から「あんた大丈夫―?今ブレーカーすぐ戻しに行くけど明かりになるもの探してるからちょっと待っててねー」と声がして、その声に安心してホッとしていた。

母親が下りて来るまでの間、何となく懐中電灯を自分に向けて顔の下から光を当ててみたり、反射鏡(反射板?)(電球の周りを囲んでいる何角形かの部分)に顔を映したりしながら待っていたら、フッと反射板の自分の顔の後ろに何か黒いものが揺れて動いて見えた。
「えっ?」と思って反射鏡に目を凝らしてみると、Aのすぐ後ろに髪をジットリ垂らした女がうつむいてゆらゆら揺れながら立っていたらしい。

Aはビックリしながらも直ぐさま気付いてない振りをしてそのまま視線をフェードアウトしながら懐中電灯を天井に向けて「おかあさーーん!何してんの、早くーーー!!」と叫びその場からダッシュで懐中電灯を照らしながら二階へ駆け上がったそうだ。
Aはその時ビックリしながらも「目が合ったらヤバい」と直感したらしい。

最後にもう一つAの家族が引っ越す前に起きた事。
ある夜Aが寝ていると急に隣に誰かが一緒に寝ている様な感覚がして目が覚めてしまったという。

その時Aは窓側に身体を向けて寝ていた。
けれど明らかに自分の背中にピッタリ背中を合わせるように誰かがくっついて寝ている。
そしてスー…スー…とゆっくり寝息も聞こえる。
「そんなはずはない、夜中だし家族は皆寝ている。え?え…!?誰????何これ!?」
と必死に考えていたらその瞬間金縛りにかかって身体が動けなくなった。

「これはヤバい、絶対ヤバい。振り向いたらヤバい。」
その時後ろの寝息が止まってそれがグルっとこちら側に寝返りをうってきた。
「!!!」
同時に寝息が止まり、普通に呼吸する息を背中に感じる。

「……起きたっぽい。うわ…めちゃくちゃこっち見られてる気がする。」
必死で南無阿弥陀仏を頭の中で繰り返し目を固く瞑っていたら金縛りが解けた。
その瞬間にベッドから飛び降りて一目散に両親の部屋へ駆け込んだ。
その後すぐに親と部屋を見に行くと、ベッドはAが飛び出したまま掛け布団が捲れていただけだったそうだ。

お祓いをしてもらっても一向に怪現象がおさまらない。
どうしたもんだともう一度お祓いの人を呼んで相談すると、例の瓢箪の飾りを提案されたそうだ。

その人によれば瓢箪は悪いものを吸い込み中に閉じ込める作用があると言う。
普通の瓢箪でも効くのかは分からないけれど、その人がくれた瓢箪の飾りものには小さな穴が空いておりもしかしたら特殊な瓢箪だったのかも知れない。
とにかく、それを壁に吊るしておけと言う。

A家族はその言葉通りに瓢箪をあちこちの壁に吊るして飾った。
そうしたらAはそれから霊現象に遭わなくなったと言っていた。
A家族はそれでも薄気味が悪く、家を出る事にしたのだが瓢箪はそのまま外さずに壁に掛けたまま引っ越したそうだ。

A家族が引っ越した後も何度か自分はその家の前を通ったが、A家族が出ていってすぐに入居を決めた人が居たようで一ヶ月も経たないくらいで誰かが住んでいた。
今も用事でその辺りを通ると洗濯物が干してあったりするからきっとそのまま住んでいる人がいるんだと思う。

今もAと会うとたまに、今度住んでいる人は大丈夫かなー…?と二人で気になったりしている。
瓢箪を外していない事を願っている。

死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?281

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