知り合いの話。
彼は山奥の小さな小学校に通っていた。
その校庭にある二宮尊徳の像に、ある噂が囁かれていた。
深夜を過ぎると、台座から降りて校庭をランニングするのだと。
そんな馬鹿な話があるかと、彼は悪友と一緒に確認に出かけたそうだ。
学校に着くと、確かに誰かが夜の校庭を走っていた。
近づいてみると、走っていたのは銅像ではなく初老の男性だった。
「こんばんは」
挨拶してきたのは、見慣れたジャージ姿の校長先生だった。
ただし、その先生は一年前に癌で亡くなっていた。
ひどく驚き、かつ恐くもあったが、逃げ出すのも失礼な気がした彼らは
「こんばんは。お休みなさい」
と律儀に声をかけてから、家に帰ったのだそうだ。
つい先日、里帰りした彼は、親戚の子から学校の怪談を聞かされた。
考える人の銅像が、深夜の校庭をランニングするという内容だったらしい。
「ひょっとして校長先生、まだ走っているのかな」
聞いてから、懐かしく思い出したのだという。
山にまつわる怖い話8