風に吹かれているもの

知り合いの話。

彼の親戚に、老いた猟師がいたそうだ。
もう猟で生計を立てていはいなかったが、よく彼を山に連れて行ってくれた。
動物の名前や食べられる野草、天気の読み方など、沢山のことを教わったという。

ある時、彼は山で奇妙な物が、風に吹かれているのを見た。
黒くて細長い毛皮の切れ端のように見えた。
まるで意思を持っているかのように、枝にクルクルと絡まったりしている。
叔父さんに知らせると、顔をしかめて注意された。

 近づくなよ。かぶられる(噛み付かれる)ぞ。

彼は慌てて叔父さんの元へ走り逃げた。
聞けば、風に乗り移動する小型の獣だという。
普段は山奥にいるのだが、時折こうして里の近くに下りてくる。
あれが来ると、なぜだか獲物がまったく獲れなくなるのだと。

そんな話を聞きながら、一緒に山を下りた。
その叔父さんも既に亡くなり、彼も滅多に山に入らなくなっている。

山にまつわる怖い話12

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