メンコ

友人の話。

里山を歩いていた時のこと。

少し奥に入ったところで、小さな集落跡を見つけた。
十に満たない家屋は、一つを残してすべて崩れ落ちていた。
おっかなびっくり中を探索してみる。

畳床の落ちた和室の片隅に、一つだけ小奇麗な小箱を見つけた。
中に入っていたのは、多種多様なメンコだった。
厚紙を重ね蝋で閉じた、手作りのしっかりとした物だったそうだ。

外に出て、そのメンコを使ってみた。
ピシャリ! ピシャリ! 
静かな廃村の中に、メンコを叩きつける音だけが響く。
在りし日の情景が偲ばれて、ひどく物哀しい気持ちになった。

メンコを廃屋に戻し、帰路に着いた。
その時になって、彼はメンコに触れたことを後悔したという。
彼のすぐ後ろから、ピシャリ!ピシャリ!という音がつけて来たのだ。
振り向いても何も見えず、だが音だけは着実に後をついて来る。
まるでどこかの子供が、彼の背後でメンコ遊びをしているかのように。

麓に下りて大きな道に出ると、音はようやくついて来るのを止め、夕暮れの山の中へと引き返していったそうだ。

山にまつわる怖い話12

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