知り合いの話。
大戦前のことだ。彼の里では、毎年夏の終わりに盆踊りを執り行っていた。
規模は小さいながらも、会場には提灯を吊るし櫓が組まれ、夜店も出た。
その里では大切な行事だったそうだ。
彼のお爺さんは、会場の設営や撤去などを手伝っていた。
常々、不思議に思うことがあったのだそうだ。
撤去片付けは祭りの翌日と決まっており、当日は簡単に片付けてから帰っていた。
次の朝来ると、誰かがこっそりと会場を使用した後が見受けられたという。
ごく一部だけだったが、前日掃いた地面に足跡が残っていたり、物を焼いた形跡があったりしたらしい。
痕跡は明らかなのに、誰もそのことは口にしなかった。
もしかすると、山から下りてくる何かと共存していたのかもしれないね。
お爺さんはそう考えていたそうだ。
戦後に農暦を使わなくなってからは、とんとそんなこともなくなった。
今では隣町と合同で、大きな盆踊りを開催しているが、夜の間に会場を使う者は、もういない。
山にまつわる怖い話12