知り合いの話。
彼の村は山に少し入った所にあるが、明治になってから急に発展した。
時の村長が有能だったらしく、様々な改革をしたという。
その時期に村祭りも規模が大きくなったと伝えられている。
ある夏の日、村と里の間を運行しているボンネットバスが、谷へ落ちた。
残念ながら乗り合わせた人たちは、誰一人として助からなかった。
運の悪いことに、村長も助役と一緒にそのバスに乗っていた。
バスを引き上げに行った村人たちは、悲しみに暮れながらも首を傾げた。
村長と助役の死体だけが、どうしても見つからないのだ。
身代わりという訳ではないだろうが、大きな鼬の死体が二頭、潰れたバスの中から出てきた。
この文明開化のご時世に、まさか鼬が人に化けるような馬鹿げた話もあるまいし。
結局、死体が見つからないままに、二人は埋葬された。
二人とも天涯孤独の身だったそうで、同じ墓所に葬られた。
人望が厚かったためだろう。墓は大層立派な物だったと言われる。
誰が拵えたのかその墓の隅には、二匹の鼬を慰める碑もひっそりと造られていた。
その墓のあった墓地は開発が進み、現在は団地となっている。
墓は移転された筈なのだが、彼はその場所を知らない。
山にまつわる怖い話12