先輩の話。
実家近くの山の展望台に出かけたのだという。
ひとしきり眺望を楽しみ、缶コーヒーでも飲もうと自販機に向かった。
休憩所に置かれていた自販機は、当時よく見られた当たり付きのタイプだった。
いきなり当たりが出た。もう一本選ぶと、それもまた当たりとなる。
調子に乗った先輩はボタンを押しまくった。
五本連続で当たった時点で、さすがにおかしいと指を止める。
壊れているのかな?と思い、器械を叩いてみたりした。
と、背後でガサガサと音がする。
振り向くと毛むくじゃらの赤黒い手が五つ、藪の中から突き出されていた。
本体はよく見えない。
足元の六本の缶ジュースと目の前の手をしげしげと見比べた。
数はぴったりだ。
一本ずつ缶を握らせると、手は静かに薮中に引き返していったそうだ。
山にまつわる怖い話14