私は登山が趣味で、一人でもあちこち行くんですが・・・
縦走中、登山靴の底がぬけてしまい、下りがかなり遅れて日が暮れてきてしまいました。
本当は下山箇所の環境センターから夕方発のロープウェイに乗って帰宅する予定だったのです。
自分のクマよけの鈴だけがカラン、カラン、と辺りに響いてすれ違う人も無く、寂しい岩場を一人で降りていきました。
辺りが真っ暗になったころ、ようやく下山まであと1キロの温泉場に到着。
ここは普段、登山者が足湯などをして楽しんでいる場所です。
もうすぐ下山だし、ちょっと寄って行こうと温泉場を懐中電灯で照らしたら・・・
全裸の女の人が温泉の岩場に座っているんです。
もう全身総毛だちました。
こんな所に人がいるわけないからです。
この山の周囲は国立公園で全く人が住んでいませんし、住んでいたとしても環境センターの男性くらいなのです。
もし女の人がいたとしてもクマの出るこんな場所に全裸でくつろいでいるなどありえません。
懐中電灯で照らした時、女が顔をあげたように思いました。
私はもう足の痛みもなんもかも忘れて下山箇所の環境センターまで逃げました。
環境センターでは登山者名簿は私が最後で皆下山しているし、縦走者も全て下山が確認されたというのです。
慌てていたから岩場の何かと見間違えたのだろうと言われ、自分でも半信半疑のまま寝袋を借りて朝を迎えました。
ついでに下山が遅くなった事、装備が充分でなかったことを厳しく注意されました。
後日、山登りの集まりがあってその話をしたところ、ある男性に
「あんた知らないのかい?」
と言われ、何か知ってるのかと問いただすと・・・
もう40年近く前、当時山小屋だった環境センターにある一家が住んでいたそうです。
山好きの夫婦で、とても仲良く暮らしていましたが子供はなかったそうです。
山小屋には風呂がなかったわけではないのですが、一家の奥さんは気丈な人でたまにあの温泉場に入浴しにいっていたそうです。
ところがある日入浴に行くと言ったまま帰らなくなり、行方不明になりました。
夫のほうはその後も山小屋に住んでいましたが山小屋が公営となり、ロープウェイが設置された後は里に降り、麓の温泉街で働いたあと年金暮らしだとか。
「じゃ私の見たのって奥さんの幽霊?」
聞いたら・・・・恐ろしい返事が返ってきました。
「違うんだよ。旦那が言うにはあの女はまだあの山で生きてるんだと。だ~れも相手にゃしないけどさ、俺にはわかるんだって酔っ払ったら今でも言ってるよ。最近の小屋の若いあんちゃんたちは知らないだろうけどさ。それでも年に何回か、温泉場で見かけたとか岩場に髪の毛が落ちてたとか、噂は聞くんだよな。だから古いやつはそういう話を聞いたら山小屋のカミさんだなって思うんだって」
常識的に考えたらありえない話だとは思いますが、じゃあ私が見たものは何?幽霊?
どちらもあまり信じたくない話です・・・。
ちなみにこの場所は東北方面です。
知っている人が他にもいたらもっと詳しく教えて欲しいです。
山にまつわる怖い話30